先週のこと。
東北地方に出張した。
駅近くのビジネスホテルに連泊して最後の晩。
さあ明日はやっと東京に帰れるぞ。眠りについてどれくらい経ったか。
ふと目が覚めた。部屋は真っ暗だし、カーテンから漏れる光もない。
ということは、まだ夜明け前だ。
廊下の方から、時折ガタガタっと物音がする。
重い物同士をぶつけているような鈍い音だ。
激しい音ではない。誰かが暴れているのであればさすがに分かる。
時折、人の声のような唸り声のようなものも聞こえる。
怖いが、このまま眠れないのも辛いので、
ベッドから降りてドアの方に近づいてみた。
のぞき穴から恐る恐る廊下を見ると、わずかに動く人影がある。
耳を澄ますと「なんだよ・・」とか
ブツブツ言っているのが聞こえて、やっとわかった。
これは酔っ払った宿泊客が、自分の部屋がわからなくて彷徨っているのだ。
ここまで来て、自分の中で「怒り」が「恐れ」を僅かに上回った。
ドアを開けて出ようと思った瞬間だった。
「ガチャ、ガチャ・・」
眼の前のドアが揺れ始めた。
この扉を開けようとしている・・
さすがに怖くなって息が止まった。
と、次の瞬間。
「バンッ!ドチッ!」
すごい衝撃が目の前のドアに伝わった次の瞬間、鈍い音が聞こえて
廊下が静かになった。
最後の「ドチッ」は、学生の時に一度だけ聞いたことがある。
人間の頭蓋骨が地面に当たった時の音だ。
気を失ってドアにぶつかり、その後廊下に倒れたな・・
もう躊躇することはない。
ドアを開けると、スーツを着た男の下半身が横たわっている。
廊下に出ると、財布やケータイも散乱していて、
何も知らずに部屋から出てきた人が見たら、
軽く腰を抜かしそうな光景だ。
その後の話はもう端折るが、
私:お尻を叩いて「ちょっとアンタ!」
男:すぐに立ち上がって「すみません。すみません」を連発する
私:部屋を特定するためにホテルの人を呼ぶ
(女性スタッフが普通に上がってきて私が逆にビビる。
この手の事変に女性がきちゃだめだろ)
私:「アンタだめだよ。カードキー持ってるの?」
(眠い&怒っているのため若干タメ口。普段は礼儀正しいのに!)
男:倒れる前の動きと打って変わって急に反応が良くなる。
自分の部屋をすぐに特定し(わかるんかい!っていうか私の向かいの部屋だし)、
カードキーも財布からあっさり見つけ、当てたら一発で解錠した。
私:男をドア内に送り込むと、
スタッフさんと「ではお疲れ様でした」というよくわからない挨拶をし、
自分の部屋に戻った。
さて・・
昨晩はちょっと遅くまで飲んだし、今日は早起きしなくでも
いいかな、と思っていたが、デイトラの神は許さなかったらしい。
やりますか、卒業制作の続き。
歯医者さんのヘッダーでいきなり詰まってるけど。
身支度して7時過ぎにロビーに降りると、
フロントには例の女性スタッフさんが立っている。
昨日の夕方もあなた立ってたよね?
何十時間勤務ですか?
外に出ると、昨日の大雨はどこへやら。青空が広がっている。
仕事場に向かう途中、隣の部屋に泊まっていた同僚が嬉しそうに言った。
「さっきさあ、俺の部屋の前で百円拾ったんだよね」