結論から言うと、隣りに座った男とは、
私自身のことである。
いつものように山手線から中央線に乗り換えた。
11月頃。会社からの帰り道。
1人分空いているシートの隙間に滑りこむと、
ぼーっと空想の世界に入った。
なにか居心地の悪いものを感じて少し顔上げると、
かすかに左手から視線を感じる。
誰かに見られているのか。
うっかり目を合わせないように気配を探ると、
その視線の主はどうやら私の
すぐ左隣の人のようだ。
私の膝のあたりを見ている。
ああ、そういうことか。
膝の上に置いた私のショルダーバッグの肩ひもが、
膝と膝との隙間に入っているのが気になっていたのだな。
さりげなく肩ひもをバッグの下に収める。
が、、
依然として視線を感じる。
なぜだ。
自分が座った時の記憶を必死にたぐる。
確か、黒いコートを着て、メガネをかけた
30歳前後の若いサラリーマンだったような。
どこにでもいそうで、特徴はなかった。
チンピラ風とか、ガテン系とか
見知らぬ人にガン飛ばしてくるような人材ではなかった。
視界の端にわずかに入るその男の影は
まだ私の方を向いている。
思いついて向かいの窓ガラスを見ると、
鏡のようにこちらの様子がわかる。
座っている人とかぶるので、
見えにくいが、その男は確かに、
私の右膝のあたりをじっと見ている。
何か霊でもついているのか。
このままビクビクしたまま過ごすのもいやなので、
思い切って男の顔を見てみた。
寝てた。
そんなに体をねじって人は寝れるのか。